2025年4月頃より、百日咳の流行が報告されております。
生後2か月からはじまる五種混合ワクチンに百日咳の予防成分が含まれていますが、その免疫が切れてくる5~15歳の子どもを中心に、感染者が増加しているとされています。
実際に、栃木県庁の報告によると、2024年12月30日~2025年5月18日の期間に、栃木県内で227名の感染者が確認されました。そのうち10~14歳が126名(55.5%)、5~9歳が40名(17.6%)、15~19歳が25名(11.0%)と、5~19歳が全体の84.1%を占めています(1)。
百日咳は、一般的に「カタル期」、「痙咳期(けいがいき)」、「回復期」と呼ばれる3つの経過をたどります。
・カタル期 (最初の1~2週間)
通常のかぜのように軽い咳や鼻水がみられます。発熱はないか、あっても微熱程度です。ただし、通常のかぜと異なり、咳は次第に悪化していきます。カタル期は、百日咳が最も他人にうつりやすい時期です。
・痙咳期 (次の2~3週間)
発作的な連続した咳が出現し、息を吸う際に笛のような音が聞こえることがあります。
・回復期 (最後の2~3週間)
咳は徐々におさまっていきますが、急にぶりかえすこともあります。
生後3か月未満の乳児では、無呼吸、肺炎、脳症といった重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
治療は抗菌薬の内服が基本です。特にカタル期での治療が有効とされていますが、通常のかぜとの鑑別が難しいため、実際には痙咳期に入ってから診断・治療されることも少なくありません。
一方で、百日咳は自然に治癒することもあるため、発症から3週間以上経過している場合には、抗菌薬が不要と判断されることもあります。
予防には三種混合ワクチンの追加接種が考慮されます。
海外では「Tdap」というワクチンが使用されていますが、日本では一部の医療機関が個人輸入して使用しているのみで、公的には承認されておりません。そのため、日本では従来の三種混合ワクチン「DTP(トリビック®)」が代替として使用されています。
日本小児科学会では、DTPを年長児に1回、さらに11~12歳時に二種混合ワクチン(DT)の代わりとしてもう1回、計2回の接種を推奨しています(2)。
また、日本産婦人科学会では、Tdapと同等の効果が得られない可能性があるとしつつも、妊婦へのDTP接種という選択肢を示唆しています(3)。妊婦への接種を行っている医療機関では、海外の接種状況にならい、妊娠27~36週の間での接種が推奨されることが多いようです。
いずれの接種も任意接種であり、費用は全額自己負担となります。
なお、2025年4月以降の百日咳流行の影響で、全国的にDTP(トリビック®)の供給が不足してきている状況です。
- 栃木県庁.百日咳の報告が増えています!. [cited 25 May 2025]. Available from: https://www.pref.tochigi.lg.jp/e60/tidc/topics/pertussis.html
- 日本小児科学会. 百日咳ワクチン接種推奨ポスターについて. [cited 25 May 2025]. Available from: https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=310
- 日本産婦人科学会. 乳児の百日咳予防を目的とした百日咳ワクチンの母子免疫と医療従事者への接種について. [cited 25 May 2025]. Available from: https://www.jsog.or.jp/news/pdf/infection07.pdf